やゝ秋山の地元を離れ見玉村ニ至り 再ひ不動尊
拝礼し 頃日宿りし瑠璃山正法院に笠を脱 
中食を用 法印の留守に力なく爰元を立ち 元来
し道ハ記すに及ハす 黄昏近く 妻有の庄小出村狩
人市郎右門か家に舎る  主の夜話に 此村円右衛門と
申者 親と一集に壮年の時樵する 往先に大樹の中 
茫々たる葎の中ニ大木横はり 円右衛門親 踏また
かんとするに 俄に草木鳴動し 木ニハあらて大蛇の
頭上るを 斧振り揚既ニ真二ツにせんとするを 円右衛門
其手にすかり 携たる斧奪ひ取り 無難にして宿へ
帰り 親ニハ悪気吹かけしやらん 心神悩乱れて命終
る 今尚円右衛門ハ存生てあるとなん 又 眼下の清津
川向へに カクマ村と云あり 先代孫兵衛と申勇猛の
もの 大蛇を殺し 代々子孫ニ崇る事あれとも 此市郎
右衛門ハ 山ニ猟し川ニ漁る事昼夜の差別なけれとも 
やゝ五十の齢に及まて奇なる事に逢すと 此程 秋
田の狩人輩か申ニ符号せりと思ひぬ 此夜ハ馴ぬ
長途に草臥て いとはやく臥し 翌日は旦より(出で立つ) 露時
雨も七・八日の内に始めて降り 又 元の十二峠越して 無
事に帰庵を祝ふ 


  秋山言葉の類

一行く事を いかず 来る事を こず 
一呑事を のまず 喰う事を くわず 
一処により極下賤のもの 自分の女房を かゝさと申 
一先方の女房の事を かゝどのと申 
一杯と申を うらと云 
一拾ふ事を ふるうと申 
一きをちと唱るハ 取わけ大赤沢・小赤沢・上の原・和山
杯也 譬ハ 茸をちのこ  煙管筒をちせる 来な
ったと申をちなった 又 きせるをけせると申所あり 
一こう往くわいのうを こういくいもうと云 或こう往
を こういきすとも云 
一味噌をめそと云 傘をおしっほりと云 此傘ハ秋山
中ニなし 里ニてハ雨の降る時ハ おしっほりなと云 頭巾を
てっへんと云 
一都而衣類を ふうとうと云 其上に細絹杯着るもあり 
是ハ山にあるイラと申草を製し用ひ 油袋杯ニ
里へも売出すとなん ふうとうハ我等方でも申p 
いかにも破れたる 垢付たる衣類を訛にても申也
一寒中ニハ 里の藁筵の如く長く織りたるを二ツに
折り叺ニいたし 其中へ柔なる干草 又ハ藁のしび入て 
其中へ体を入て寝 夫婦ハ一としほ大きなる叺に
入り寝 何れ叺を用るハまた上品也 多くハ極寒と云
とも帯解かす 其儘に臥し 又炉ニ大火を焚き 其辺
りに寝るもあり 此話書うちに不図思ひ出るにまか
せて 

  みちのくの菅こもならて秋山の
   叺の中ニ妹と背かねる

一茶煎ハ 予か立寄る毎ニ家々に見たる 皆鍋欠なり 
一米ハ 一年中ニ大晦日の晩ニ限り 正月三ヶ日ハ 杤ニ
も餅杤と云あり 是を製して三ヶ日ハ杤餅をたへる 
又 春秋日待と云ありて 右の杤餅を搗 茲ニ一ツの
噺あり 一とせ 見玉の者借金にもまれて秋山へ迯
行 時ニ秋山の知り人の方を尋ね 鯖二タかけ土産ニ
持行ニ 大卅日の夕飯に家内の者一と切れ宛焼て喰
ふ折から其家に老人あり 家内へ申にはシャバテ
年取るハ今夜切りと訛りて申とかや 是見玉村ニ
頃日舎りし時の茶話也 かゝる間違の異語 其外
数々ならめと 予ハ聾にして 家族の気遣ひさうに何
一ツ噺もなく 都て老人達の里言葉勝か予か為
ニハ不地走なれともせんすへなし 
一十月より三月迄 雪の内ハ村ニ寄り杤餅勝ニ喰ふ 
其白き事雪をあさむく 製し方 前巻に記せし故
略す 其余 此土地の上食ハ粟ニ小豆ニ交せたるなり 朝ニ
ハ年中稗焼餅にて 又 貧なるものハ粟糠に稗
を交せ 飯ニ焚く 雑水ハ 秋より末へ暫くの内 蕪の根
を葉からみに切刻み 乃至三人位の家内の食用なれハ 
稗の粉一合位も入て煮立時 掻交せて喰ふ 又 楢の
実を製して食うもあり 故ニ四十六年の昔 卯の凶
年ニハ木の実もならす 畑ものも実らす飢死す
る外なし 故ニ里地へ乞食に出 疱瘡の厭ハす 道
路ニ餓死する多し 取わけ秋山の内にても 上の原・
和山杯杤・楢の実勝ちに用るとなん 
一秋山中ニ梅ノ木一本も見す 是深山の奥にて育
たぬと見へたり 況其余の庭木らしきハ更になし 
今四・五十年も過ハ必好事のものありて 谷水自在に
して大小の奇石多き故 泉水・築山なと楽しむ物
好も有ぬへし 実に太平の御代つゝき逐年里
振りを習ふ故にそ 
一稲 入口の秋山下結東・上結東・清水川原・小赤沢杯ニ 
田二・三枚 三・四枚宛 見たり 小赤沢にて老人の噺に 稲ハ
里ならてハ出来ぬものと心得しか 極早きものハ四・五十年
以前少し植始め 多くハ十四・五年此方 家の辺ニ一・
二枚つゝ田を堀耕となん 
一味噌ハ大豆作る故製しても 糀ハ少しも入れす 其月
月に早製して用ひるかして 納豆の匂ひすと桶屋か云 
一荏草を落しなから慰のやうに喰ふ 
一火口を ほっちと唱 茶碗を 石五器と云所もあり 
一人か立寄ると何所からわせたと云て 大なる盆を
さし出す処まゝあり 是をつもの盆と云 此方より手
をさし出すと もの摘なされと申 是か礼儀のよし 
一座敷の事を 唐戸とも云 
一男の褌の事を 尻くゝりと云 女の褌を サネスダレと云 
一人の死したる時 坊主と云もなけれハ 夜ニ入り 近処
ある村ハ十四・五才以下の童の男女集りて 回向の只
同音にナマナマと唱 終りて后 栗の赤飯を出す 
十五以上の者ハ寄らす 
一持つて来よと云を モツコウと云 

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