さけのすばしりは雪前に河原などにある事也。かれあみにせめられ人にも追はれなどして、水を飛離れて河原にのぽり、網ある所をこえて水にとび入りてあみを退るゝ也。此時は大鮏さきにすゝみて水をはなるれば、よりゐたる小鮏など后に随ひてのぼり、河原をはしる事四五間にすぎざれども、箭のごとくして人の足もおよぴがたし。さきにすゝむ大鮏、もし物にさはりて横に倒るゝ時は、あとにしたがひたる鮏もおなじくたふれてふたゝぴおきず、人の捕るを俟がごとし。はからずして手も濡さず二三頭のさけをうる事あり。かれ足無して地をはしり、倒れてふたゝぴ起ざるなど、魚族中比ふべきものなきは奇魚といふぺし。
初編巻之下 一覧
渋海川さかぺつたう / 鮭の字考 / 鮭の食用 / 鮭を出す所並鮭始終 / 鮭を捕る打切並つゞ / 掻網 / 漁夫の溺死 / 干曲川の総滝 / 鮭漁の類術 / 鮭の洲走り / 人家の垂氷 / 笈掛岩の氷柱 / 滝の氷柱 / 雪中の寒行 / 寒行の威徳 / 雪中の幽霊 / 関山村の毛塚 / 雪中鹿を追ふ / 泊り山の大猫 / 山言語 / 童の雪遊ぴ / 雪に座頭を降す



