大正時代の植物事典 (大植物図鑑 "フキ")
野生と園養との種類を有する宿根草本なり。園養品に至りては葉の大さ直徑五六尺に達するものあり。通常葉柄は二尺許、上部に圓状腎臓形の葉身を有す。三四月の候根莖より花莖を生ず之を欵冬花と稱す。この花の有する花莖は葉を有せざれども大形の鱗片數多く具ふ。小花は凡て管状花にして群集す。花後開展して高さ六七寸に達す。
【食】 花の未だ開かざる者をフキノトウと稱し料理の吸出しとし叉醤油に煮〆たる者を食用す。此者はたんせきに効ありとて藥用的に食用するものあり。叉此葉の有する葉柄を取りて食用に供す。本邦北地殊に秋田縣地方に生ずる者は秋田蕗と稱し頗る大形なるもの大なるものは高さ一丈、葉の大さ直徑五六尺に達するものあり。
調理法 欵冬の調理法は種々あれども二三種の調理法を擧げて聊か讀者諸君の食膳に供せんとす。
(一)欵冬味噌 煠でたる欵冬のとうを摺鉢にて摺り酒粕一合に赤味噌少許を加へ胡桃の剥きたるを摺合し尚蕃椒少許を加味し製す。
(二)伽羅欵冬 莖を一二寸位に切り日光に乾し蕃椒を煮出して醤油を加へ除かに煮詰め壺の類へ乾したる欵冬と共に入れ密封し置くなり。
(三)欵冬花甘煮 欵冬のとうをゆで水に洒し屢々水を取換へて苦味を取りたる後充分に絞りて水氣を去り鹽、味噌、砂糖にて煮付くるなり。
【園】 この植物は福壽草、雪割草等の如く葉に先ちて花蕾を出すものにて梅の根占めとし叉蕗臺山として鉢植にして中々趣味を有するものなり。本種も亦園藝變種を有するものにして斑葉(いさは)紫等あり。紫と稱するものは發芽せる時紫紺の濃色を有し、成長すれば葉裏より葉柄にかけて稱々腿色し表面は普通のものと同じけれども綠色に稱々暗紫色を帶ぶ。前記アキタブキは秋田地方にては大形なるものなれど他の地方に移植すれば三年目位には普通大となるものなり。
栽培法 蕗は根の頗る強健なるものにて大抵の陰地にても繁茂するものなれば庭園の隅等に置けば充分に發育す。別に肥料を用ひずとも枯死する等の憂なきものなれど食用として肥大なるものを得んとするには下肥叉は大豆柏等を與ふれば充分なり。若し叉盆栽用とする目的ならば肥料を與へざる方矮小なるものを生じ風雅あり。
江戸時代の植物事典 (長野電波技術研究所附属図書館 蔵書)
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