
「キナ樹は喬木或は灌木にして重に南米「アンデス山東部に野生し「シウエネズエラ」、「ニユーグラナダ」、「ペルー」、「ボリヴイヤ」等に産出すれども、現今は東印度、「ジヤワ」、前印度南部、錫蘭島等にて栽培す。葉は革質全邊にして互生し、花は圓筒状にして先端五裂し内部に絨毛を有す。
【藥】 本植物の皮部を「キナ皮と稱し藥用に供す。本皮は管状若しくは半管状或は扁平枝状にして之れを破折する時は内部に於て纎維状をなし更に顯微鏡下に撿すれば其の縦斷面は本品の特徴たる皮壁の厚化せる内皮纎維を見るものとす。
「キナ皮の用途に二樣あり一を藥用「キナ皮とし、一を「キニーネ」製造用「キナ皮とす。前種は該皮中全「アルカロイド」の含量を目的とし後種は單に「キニーネ」の含量を以て標準とす。即ち「キナ」樹を種類により區別すること左の如し。
黄色キナ皮基本植物 (0447)
本植物より採取したる「キナ皮は第一種の樹皮にして南米産中最良品とす。本品は抱層を被り管状をなす者と抱層を有せず殆んど本部より成り板状をなす者とありて何れも帶赤黄色を呈するものとす。
赤色キナ皮基本植物 (0448)
本植物より採取したる「キナ皮は第二種の樹皮にして印度の培養品を最良とす。本品は管状或は扁平をなし木部は帶褐赤色を呈する品種なり。
褐色キナ皮基本植物 (0449)
本植物より採取したる「キナ皮は第三種の樹皮にし管状をなし外部は灰褐色、内部は桂褐色を呈す。
以上記述せる三種は各圖版に示せる如き形態の特徴を有れども花色は各種共淡紅色を呈するものとす。其の他銅色「キナ皮、灰色「キナ皮等の種類あれども、現時は「キナ皮の品種を鑑定するに外觀によらず、専ら「アルカロイド」含量の多少によりて良否を評定するに至りたるを以て之れを省略す。
キナ皮の鑑定法 「キナ皮の粉末を試驗管中に投入し加熱する時は洋紅色の「タール」を生ずるを以て眞正なる「キナ皮の特徴とす。此方法による時は明瞭に他の樹皮と判別し得らるゝものとす。
キナ皮の主成分及び効用 「キナ皮の主成分は「キニーネ」、「キニヒーン」、「シンコニーン」、「シンコニヂール」等にして、本品の解熱に特効あるは之れ等の「アルカロイド」の含有に主因す。其の他の「アルカロイド」も含有すれど其の質甚だ僅少なり。
本品及び其の塩類は解熱劑、健胃強壯劑として有効確實なる藥品とせらるゝものにして用途頗る廣し殊に「マラリヤ性諸症に特効あり。日本藥局法の製劑は「キナ越幾斯、「キナ丁幾等重なるものとす。