大正時代の植物事典 (大植物図鑑 "クズ")

山野に自生する纒繞草本にして、莖二三丈に達するものあり。葉は大形にして三箇の小葉より成り、莖と共に褐色の毛茸に富む。秋日葉腋に五六寸の穂をなして蝶形花をつく。花色紫赤色を呈し、花後大なる莢を結ぶ。根を取りて藥用となし、叉葛粉を製す。秋の七草の一なり。
【食・藥】 冬月生根を掘り、搗き碎きて澱粉を採取す即ち葛粉と稱し種々の食料を作る。嫩葉は煠熟し、老葉は乾して和物とし、叉煎粉とす。叉花を採取して陰乾としたるものを粉末とし、酒に混じて飲用すれば酒に酔はずと云ふ。
葛粉の製法
冬月根を掘りよく洗ひ、臼に入れて搗き碎きたるものを桶に入れ、水を以て揉み出し得たる灰白色の汁液を細き目の笊にて濾過し、其の液を靜置して砂塵を沈澱せしめ、其の上液を取り濾し袋に入れて之れを搾濾し、再び桶に入れ水を加ふれば半日許にして更に沈澱するを以て、其の上液を去り、下液及び沈澱を他の桶に入れ、水を加へて攪拌し、更に沈澱を取りてこれに水を加ふ。かくすること四五回にして最後の沈殿物を取り、日光に晒し、乾燥し得たるものを粗製葛粉と稱し、灰白色を帶ぶ、即ち灰葛と稱するもの是なり。嚴寒の候此の粗製葛三斗位を取り桶に入れ、水を加へてよく攪拌し、馬尾篩を以て濾過し汚物を去り、之れを半日餘放置し沈澱せしめて上液を去り、更に水を加へて攪拌し、二日間程放置し其の上液を去り、表面に附着せる黒灰色の部分を除き、更に水を加へて攪拌す。かくすること約八九回に及べば純白なる葛粉を得所謂寒晒葛、上葛叉白葛と稱し上等品とす。
葛粉は大和の吉野を以て古來極上品とすれども、其の他筑後、久留米、紀伊、美濃、河内等の産も世に著名なり。
葛粉は其の調理法種々あり、葛根湯、葛饅頭、葛餅、葛湯、葛葉素麺等重なるものなれど、製法は一般に知悉せられ居れば玆には之れを省略す。