大正時代の植物事典 (大植物図鑑 "ザクロ")

元來地中海沿岸の原産なれば本邦には主として園養の落葉灌木にして高さ7,8尺に達す。葉は長橢圓形全邊にして光澤を有し略々對生す。梅雨の候枝梢上に通常赤き筒をなせる蕚と深紅色の花瓣とを有する美花を多數に着生し、花後蕚は發育して果皮をなせる果實を結ぶ。この果實は熟するに至れば列開して紅色の肉を以て包まれたる種子を現出す。觀賞用のものには多くの變種を有し重瓣のものあり或はは白色其の他の花色を有するものあり。
【藥】 本植物の幹皮及び根皮を柘榴皮と稱し藥用に供す。本品の主成分は「ペルレチエリン」及び「イソペルレチエリン」と其の他に柘榴鞣酸とを含有す。本品に使用するものとあれど、其の他にも以下各種の特効あり。
イ 縧蟲驅除の目的に使用するには之れを煎用す。先ず患者は本劑使用前約1日若しくは2日間絶食し然る後根皮凡そ5匁を1合5尺の水に24時間浸出したる後之れを1合位に煎結め適宜服用し30分經過したる後少量の「ヒマシ」油を飲用すれば必ず驅蟲の目的を達すべし。
ロ 根皮を薫燒すれば水蟲を治するに効あり。
ハ 花全體を取り蔭干にしたるものを適宜煎用すれば下痢を止むるに効あり。尚この煎用は白帶下にも特効あるものなり。
【盆】 本植物は園木としても捨て難き趣きある品なれども近來盆栽用として頗る流行するものなり。其鮮紅色の花は初夏より咲き初め7,8月に及び其の葉の光澤ある翠綠と相調和せる様、秋日に至り紅色奇形の實を結ぶなど實に夏秋に亙る觀賞の花木なり。
種類 本植物には花柘榴と實柘榴との2種あり。前種は多く八重咲にして果實を生ぜず。主として盆栽用に供し、實柘榴は多く庭園に栽植す。花柘榴には花色に赤、白、絞り等あり就中園藝家の愛玩するものを八重樺、のちし*り、錦袍(赤白絞り)等とす。實柘榴にも亦種類多けれども子實の大形にして稍々白く透明なるを水晶柘榴と稱し、子粒中形にして濃紅色なるを姫柘榴と云ふ。
繁殖 柘榴はとりき、挿木、根分等により繁殖せしむ。挿木は入梅中赤玉を用ゆるを可とし、若し赤玉を用ひざる時は日蔭の濕地に挿せば容易に根を出すものなり。とりきは根元より發生せる枝條を曲げて地上に伏せしめ其の部を少しく傷けて上に土を覆ひ尚其の上に小石等を載せ置けば遂に根を下し1箇の植物となるなり。
枝上のとりき法 右3法による時は生長遲く容易に開花するに至らざるを以て普通樹上にてとりきを行ひ繁殖せしむるを可とす。本法は枝上適當の部分を1寸乃至1寸5分の幅に周圍の皮と肉(少し)とを剝ぎ其の部分に赤土の塊を附け、其の上を水蘚にて包み繩にてよく卷き包み、晴天の時は毎日2度位づゝ水を注ぎて常に適度の濕氣を保たしめ約1箇月を經過すれば充分に白根を發生するに至るを以て其の下部を切り取り赤土の付きたるまゝ直ちに畑地に植ゆるなり。
移植 畑より鉢、或は他所より庭園等に移植せんとするには4月頃芽の少しく出でたる頃より入梅迄の間を可とす。