-- ハシリドコロ Scopolia japonica 莨菪(0627) --
大正時代の植物事典 (大植物図鑑 "ハシリドコロ")
一名をメキグサと稱し山地の幽谷等に自生する多年生草本にして梢々ところに似たる結節状の地下巠を有し年々之れより新芽を抽くこと尺餘に達し始めは帶紫色を呈するも漸次長ずるに従ひ淡綠色に變ず。葉は葉柄を有しヤマゴボウに似て小さく長橢圓形全邊にして互生す。夏日葉腋毎に帶紫褐色を呈する合瓣花を長梗によりて垂下し果實は蒴果にして宿存萼内に位し二室を有し内に多數の微細なる種子を藏す。
【藥】 本品は有毒植物の一にして之れを食すれば狂氣走出遂に人事不省に陷ることあるものなれど叉藥用植物として有用なる品種なり。局法にロート根として指定せられたるものは本植物の根を採集乾燥したるものなり。其の主成分は「アトロピン」、「ヒオスチミアン」、及び「ヒオスチン」等の「アルカロイド」を含有す。醫治効用は主として此「アトロピン」に起因するものなれば用法等「アトロヒン」と同様瞳孔散大藥とし、叉汗腺、腺腋腺、粘液腺の分泌を閉止するに用ゆる等効用甚だ廣き者なり。