-- マルスグリ (2029) --

一名スグリと稱し歐洲原産の落葉灌木にして英名を「グースベリー」と稱し本邦にては庭園に栽培す。莖は叢生して三四尺に至り刺を有す。葉は略々圓形なれども缼刻によりて淺く三裂し縁邊に鋸齒を有す。春日葉腋より花梗を抽き淡綠色の小花をつく。果實は平滑なる漿果にして球形をなし其の色綠黄色なれども少しく赤色を帶ぶ。
【食】 本果實は生食或は「ヂェリー」製造に適し、或は「スグリ」酒を壤成す。
本植物は其の種類多く左に重なるものを記す。
(一)「スグリ」 一名スングリと稱し莖細く高さ僅々二三尺に過ぎさる小灌木にして枝に刺多く葉は圓形にして淺く三裂す。夏季に至れば淡綠色の小花を垂れ橢圓形の小果を結ぶ。收穫頗る多し。
(二)「コマガタケスグリ」 葉は掌状をなし下面に腺點を有し花は凡て兩全にして長き總状花序に排列し果實は黒色を呈す。本邦駒岳、白山、日光其の他の高山に生ず。
(三)「アカフサスグリ」(赤房スグリ) 北歐羅巴・亞細亞・北亞米利加に産し、形状ヤブサンザシに似た小灌木にして刺を有せず。葉は心臓状にして二乃至五裂し各裂片は圓形をなす。夏日綠色の兩全花を總状花序をなして垂下し、花後最優品にして光澤ある黄紅色の良果を房状をなして結實す。果實は香氣高く酸味少くして風味殊に賞すべし。舎利別、氷水及び果酒壤造用に供す。
(四)「クロフサスグリ」(黒房スグリ) 本種は樹勢強健にして發育最も速かなる種類とす。花は總状花序に排列すれども前種よりも稍々花數少けれども小果を豊熟し、熟すれば黒色となり香氣を有す。味甘酸にして生食するを得べく、叉「ジャム」・「デェリー」を製し、或は壜詰とし或は飲料等を製出するに重用せらるるものなり。