又ゐなかにてハ野稲とも云
畠稲の種子も色々あり、土地所の考して、利分のまされるを作るべし。梗あり糯あり、其中に、占城稲と云ハ、糯にて米白く、その粒甚ふとく、穂の長さ一尺余もありて、其から大きに高くして芦〈よし〉のごとし。是畠稲の名物なり。土地にあひたる所にてハ、おほく作りて、過分の利潤を見るべし。凡旱稲を作る地ハ、水田にしてハ水乏しく、又畠にしてハ湿気ありて、両様ともに宣しからざる地に是をうゆれバ、水稲にも勝れて実ある物なり。肥たる地ハ尤よし。大かたの土地にても、湿気ありて、少深く和らかなる地に宜し。糞のしかけ手入、取分ほどらひある物なり。心を尽して作るべし。
苗地の事。冬よりくハしくこなし、雪霜にあハせてさらし置たるに、熟糞をうちをきて、籾を水に浸す事、三日にして取あげ、日にあてくちすこしはいもちよこすぢ口の少ひらくを見て、灰こゑを用ひて、横筋を少深くきり、麦の蒔足ほどに、むらなくまき、土をおほふ事も麦に同じ。若地かハきたらバ、うすき水ごゑをそそきて土をおほふべし。猶相つゞきて旱せば、其後も度々水をそゝくべし。苗二三寸にもなりたる時畦のたかき所をふミ付べし。但うるほひある時ハふミ付べからず。
同じく種子を蒔時分の事。二月半より四月までハくるしからず。さて移しうゆる事、甚肥たる地を好むにもあらず。荒しをきたるを、秋より度々耕し細かにこなしをきて、苗の長さ七八寸なるを待て、がんぎを少ふかく切て、灰ごゑを以て、葱をうゆるごとく、一科に三四本、*地ならバ、四五本づゝうゆべし。かぶ殊の外ふとる物なれば、肥地ならバ、かたのごとく薄くうゆべし。中うち芸り、培ふ事、麦とかハる事なし。中うちの度ごとに、色を見て、よく熟したる糞水〈ミづこゑ〉をうすくしてかくべし。惣じて甘味のつよき物なるゆへ、濃糞又ハあたらしくつよき糞をバ、必用ゆべからず。虫気する物なり。
唐にて毎度旱損する国に、此旱稲のたねを、他国より求め来りて作りてより後、飢饅のうれへを助りたりと農書に記せり。是占城稲のたねと見えたり。然れば何れの村里にも、田にハ水乏しく、畠にしてハ湿気ありて、思ふやうに耕作のなりがたき所、かならずある物なれば、畠稲の作り様、心あひを、よく考へて作り試べき事也。思ひの外相応して、水稲の利分におとらざる事もあるなり。前に述るごとく、惣じて其所に、前々より作り来りたる物バかりと思ひ入、旧きならハしにまかせ、更に広き才覚工夫をば用ひずして、偏に管の穴より、天をうかゞひたるふぜい、又ハ怠り無精にして、他の作り物ハ、此地にハあハぬとバかりおもふハ、無鍛錬の至り、口おしき事なりと、古人も*り戒めたり。尤土地風気の違にて、かつて其所に合ざる物も有とハ見えたれども、それハ稀なる事にて、大かたハ手入しかけによりて、出来る物なれば、五穀ハ云に及バず、あらゆる品々の物たねを求め、其法をならひて、心を尽し作りて見るべし。間にハ、其名物と云物程こそなくとも、思ひの外に利を得る物もあるべし。土の性も、人の才智と同じ心にて、必得手不得手ある事なれば、委しく心を用ひて、其地の相応を能見わけ、能其手入をならひてつとめたらんにハ、只今まで作り来れる*の田畠の内にても、其利潤そくばくのちがひあるべし。
農業全書二巻 一覧
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